2007.12.24 (Mon)

ボーカロイドならではの歌

「初音ミクたちの実力を見る動画」は、初音ミクたちボーカロイドがどれだけ人間に近付く事ができるかの例でしたが、「人間に近い歌」がボーカロイドの実力の全てではありません。
人間に近い自然さで歌う事ができるソフトというのは、作る側としては利点も多いようですが、聞く
立場としては「人間に近い」という程度なら人間を聞けばいいわけで、特にボーカロイドの歌を聞く
理由にはならないと考える人もいるでしょう。
それでもボーカロイドを好んで聞くファンが多いのは、キャラクターや歌声自体の魅力、色々な分野での二次創作の盛り上がり、ボーカロイド作者達のメジャーにはない個性的な作品の数々、革新的な技術と新しい文化への興味、など様々な理由があると思いますが、その一つとして、人間の歌い手とは違う「ボーカロイドならではの歌」があるためでもあります。

ボーカロイドには、人間の歌手にはない様々な特徴(長所も短所も)があります。
例えば最も基本的な弱点として、ボーカロイドは歌声に抑揚や感情を込める事が苦手です。
声に複雑な揺らぎを持たせる事で何かを表現したり、語りやシャウトが入ったりする歌を人間のように歌いこなすのは至難の業で、一部の神調教職人の職人技を除けば、次世代VOCALOIDでの克服に期待するしかない致命的な欠点と言えます。人間なら歌う前にまず喋る事ができ、声での感情表現は誰もが持っている能力です。しかしボーカロイドはその両方を持っていないので、職人が人工的に作り出さないとなりません。
→それを克服する試みについては「人に近付くミクの歌声 ぼかりす騒動」「ミクはどこまで喋れる? トークロイド(1)」「初音ミクの自在に変わる歌声」

逆に人間ではないからできることもあります。
ボーカロイドにとっては平坦な曲も音が激しく上下するような曲も変わりはなく、どんな難曲でも乱れる事はありません。無茶な高さで歌い続けても、声が潰れることもありません。息継ぎはできますが人間っぽく見せるためのアクセサリーに過ぎないので、当然あっても無くても歌い続ける事ができます。
そのため、多くのボーカロイドオリジナル曲では音域・息継ぎなどの面で人間が歌う事を前提としない曲作りが行われていて、がくぽの中の人でもあるシンガーソングライター・Gacktさんが語ったように、より自由な新しい音楽を生み出していける可能性を持っているのです。
→Gacktさんの発言の詳細は「ニコニコ生放送でGacktさんががくっぽいど動画を見た反応(雑記)」

今回は、「ボーカロイドならではの歌」としてよく名前の挙がる曲の中から、いくつか選んでみたいと思います。




 初音ミクオリジナル曲 「初音ミクの消失(LONG VERSION)」
「ボーカロイドならではの歌」としてまず一つ選ぶとしたら、この「初音ミクの消失」です。
壊れていくミクの叫びを、プログラムならではの圧縮された超高速歌唱(息継ぎ無し)で表現したこの歌は、VOCALOIDをテーマにしてVOCALOIDだけが歌えるように作られた別れの歌です。機械的に聞こえる声も、この曲ではテーマに合った最良の歌声と言えます。
発表当初は人間には歌えない歌とされていましたが、その後多くの「歌ってみた」歌手がカバーして、その内の何人かは見事に歌いきっています。ただ、やはり生身の声では高速部分は苦しいようで、アレンジを変えたり語りを入れて物語性を膨らませたりといった部分で完成度を上げているようです。
同じように、正確な高速歌唱でボーカロイドらしさが出ている作品としては「裏表ラバーズ」「ぱっへるべるのかのん」も知られています。
「暴走する超高速歌唱 cosMo(暴走P)作品」



 初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「ストロボナイツ」
多くの作者達がボーカロイドの機械的な癖を消すために苦労しているのですが、それとは逆の発想で、機械的である事を強調してVOCALOIDならではの歌声を作り出したのがこの曲の作者「kz」さんです。
kzさんは、「人間を機械的にするエフェクトを機械にかけたらどうなるんだろう」という興味から初音ミクで曲を作り始めたそうで、一作目の「Packaged」から続く独特の調整で人気になっています。
その調整は「ケロ声」と言われるもので、ボーカルピッチ補正ソフト「AutoTune」で過剰に補正をかけたときに生まれる独特の声です。これをわざとかけることで人間の歌声をマシンボイスに変えるテクニックがあり、パフュームやダフトパンクといったテクノ系アーティストが使う技術として知られています。
歌声の情感を抑えて機械的に加工することのあるテクノなどの分野は、最初から加工前提に調整されていて機械に徹する事ができるボーカロイドにとって得意分野と言えます。
ケロ声ではありませんが、チップチューンの「ニジイロ*アドベンチュア」なども、電子的サウンドと
プログラムの歌声が調和して人気があります。古いゲームのようなサウンドの音楽ジャンルである
チップチューンも、ボーカロイドの歌声と特に親和性が高いジャンルです。
「マシンボイスの歌姫 kz作品」



 【初音ミク】 サイハテ 【アニメ風PV・オリジナル曲】
ボーカロイドの歌にはいくつかの欠点がありますが、その欠点が逆に長所となって大ヒットの一因となったのがこの曲「サイハテ」です。
曲とPVは明るくポップでありながら、歌詞は愛する人を送る葬送の詞で、それを初音ミクが淡々と
無機質に歌っています。
通常、ボーカロイドの「抑揚が付けづらく激しい情感が込められない(一部の神調教を除く)」という
特徴は人間の歌声と比べて大きく劣る点ですが、サイハテについては、この「淡々とした歌声」の曲とのギャップがヒロインの虚無感を表現していて、作品を構成する重要な要素になっています。
この曲を、曲調の通り明るくポップに歌っても、歌詞の通り悲しみを堪えるように歌っても、恐らく別物になってしまうでしょう。このように、声に生々しさを感じさせない方がいい作品では、ボーカロイドの強い感情を感じさせない声は向いていると言えます。
他には、「暗い森のサーカス」などのホラー系の曲では、ボーカロイドの無機質な声で恐怖や狂気を効果的に表現している作品が多くあります。



 初音ミクオリジナル曲 「ハジメテノオト(Fullバージョン)」
「ボーカロイドが歌うからこそ意味のある歌」の最たるものが、ボーカロイド自身を歌ったキャラクターソングでしょう。なにしろ最初からキャラクターのための歌なので、そのキャラクター以外が歌うには適しません。
この「ハジメテノオト」は、「みくみくにしてあげる♪」や上の「初音ミクの消失」と並んで人気のある
キャラクターソングです。歌う事しかできない存在だからこそずっと変わらない想いを歌い続けるという初音ミク視点の歌で、タイトルも「初音」とかけているなど完全にミクのための歌になっています。
キャラクターであると同時に歌うプログラムであるボーカロイドが、自分をテーマに自分のために作られた歌を自分で歌うという、理想のキャラクターソングのあり方と言えるのではないでしょうか。後は自分で曲も作ってくれたら完璧です。(そういうソフトもありますが)
こうしたキャラクターソングはブーム初期に多く作られて人気になりましたが、現在ではもっと普遍的なテーマのオリジナル曲が主流になっています。
「初音ミクのキャラクター」



 【鏡音リン】あなたが そろそろPさん?【リアル人力検索】
ある程度の知識とソフトさえ揃っていれば、PC一つで曲作りから歌入れまでこなせてしまえるという手軽さは、ボーカロイドの大きな特長の一つです。そして、その特長を最も生かしているのが、この
作品の作者「そろそろP」だと思います。
「そろそろP」はカバーや日記的な歌詞の替え歌を主体としたPですが、異常なほどの多作で知られ、今までに一人で300以上の作品を投稿しています。
多いときには一日一本のペースで数ヶ月途切れることなく投稿を続けたり、ノートPCを使ってイベント会場で曲を作っているところを目撃されたりと、様々な逸話を持っています。
特にこの曲は、電車の中で「DTM(電車トラベルミュージックの略だそうです)」していたところを見知らぬ人に「そろそろP」だと特定されて、それからすぐに作り始めて電車の中だけで作詞・VOCALOID入力・動画作成・ニコニコ動画へのアップを完結させた作品だそうです。こんな事ができるのは、手軽なボーカロイドならではと言えるでしょう。
まあ、いくら手軽でもそろそろP以外はできないような気もしますが・・・



 家具のミク3(初音ミクのオリジナル曲)
ボーカロイドジャンルには、「全部ミク」「全部リン」「全部KAITO」など「全部~」という分類タグがあります。これは、ボーカルだけでなく全ての音をそのボーカロイドの声で演奏している作品に付けられるもので、他の楽器などの音源は一切使用しません。
このタイプで多いのは、ボーカルは普通に歌って、バックの演奏を「らー」とか「あー」など声で楽器の代わりにする作品です。「歌ってみた」の1ジャンルである「全部俺」もやっていることはそれほど変わりませんが、ボーカロイドの声は加工を前提としているため、どこまでも人から離れて楽器に近づけていけるという特徴があります。
その中でも「sansuiP」によるこの「家具のミク」シリーズは究極とも言うべきもので、全ての音をミクの声で奏でているのですが、ほとんど「声」ではなく「楽器」になってしまっています。言われないとミクの声だとはわからないぐらいで、人の声でない分、どこまでもただの「音」として音楽に溶け込んでいけるようです。
シリーズのタイトル「家具のミク」は、アンビエント(環境音楽)の元祖と言われるサティの「家具の音楽」をインスパイアしたものだそうです。
ちなみに、家具のミクシリーズの中ではこの「家具のミク3」が一番ミクの声が「声」として残っている作品で、その分アンビエントからは離れていると言えますが、環境音楽として完成度が高まっていく「家具のミク5」「家具のミク6」になるともうただの「音」になっていて「ミクと言われないと解らない」ではなく「ミクと言われても解らない」位になっています。
作者の「sansuiP」は、この「家具のミク」シリーズの他にも多くの作品でミクの声を楽器的に扱う試みをしている人で、アンビエントの他にエレクトロニカやノイズ音楽なども得意としています。また、「VOCALOID・アンダーグラウンド・カタログ」の編集者でもあります。


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テーマ : ボーカロイド ジャンル : 音楽

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*Comment

どの曲見ても、ミクを強調してますね。
特に、暴走Pは、強調してる部分。
機械にしか出来ないところもあります。

歌い手は、録音したのを、音声編集(?)で早送りしたん
だと、思うけど・・・

でも、やっぱり歌い手とか聞いて
最終的にミクの良さに行き着く。やっぱりミクが
いいって思います^p^
名無し |  2009.06.08(月) 07:22 |  URL |  【コメント編集】

■Re: タイトルなし

ボーカロイドならではの良さがありますね
ここでは省きましたが、合唱曲なんかもボーカロイドは得意ですね。絶対にぶれない完璧なハーモニーで歌ってくれます。
sekise |  2009.06.09(火) 09:03 |  URL |  【コメント編集】

ボーカロイドならではの曲
鏡音レンの「Imitator」も是非紹介して下さい
初めて聞いたとき涙がとまりませんでした><。
ナオ |  2010.04.01(木) 22:37 |  URL |  【コメント編集】

■Re:

「Imitator」は自分も好きな曲です。ミクの「ハジメテノオト」にも通じるボーカロイド・鏡音レンならではのキャラクターソングで、ウタPの代表曲でもありますね。ウタPの曲はいずれ本記で紹介させてもらいたいと思っていたので、どこかのページに入るかもしれません。
sekise |  2010.04.02(金) 08:24 |  URL |  【コメント編集】

こんにちは!私、えみこと申します!(仮のなまえですけど…)
いやぁボカロって最高ですね!
私がボカロを好きになったのは、友達がよくカラオケで、歌ってて「あ、この曲いいなぁ」と思ったからです!
キャラクターもかっこいい人や、かわいい人がいるので好きになりました!
まだ、好きになったばかりなので、分からないことがありますけど、ボカロのファンの方々、これからもヨロシクお願い致します!
えみこ |  2012.04.14(土) 20:19 |  URL |  【コメント編集】

いえーい
 |  2012.06.16(土) 10:15 |  URL |  【コメント編集】

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