2008.05.08 (Thu)
人に近付くミクの歌声 ぼかりす騒動
VOCALOIDの複雑なパラメーターを調整してうまく歌わせる作業を「調教」と呼ぶ習慣があり、最高
レベルの調教の作品には「神調教」というタグがつけられます。
その神調教の中でも、特に人間に近い作品を生み出す二つの動画シリーズがあります。
産総研の音声研究の過程で作り出された自動システム「ぼかりす」と、
ぼかりすの神調教に対抗するために作り出された、職人による調整法「ぼかんないんです><」。
そして、この二つの技術が発表されたきっかけとなった騒ぎが、「ぼかりす騒動」です。
発表当初、「ぼかりす」は謎の自動技術として話題になり、ネットニュースにも取り上げられるほどでした。
その正体は、産業技術総合研究所(産総研)による「音楽情報処理研究の一環として開発された
『VocaListener: ユーザ歌唱を真似る歌声合成パラメータを自動推定するシステム』のデモンストレーション動画の一部を掲載したもの」だと後に明かされています。これは、人間の歌い手が歌ったデータを元にVOCALOIDの歌唱データを自動で作り出すシステムで、さらに大雑把に言うと人間の歌声を録音してVOCALOIDにコピーするようなものです(多分)。
一方「ぼかんないんです><」は、ぼかりすを分析したyuukissさんが「あ、それってOKだったんですか」と編み出した調整法と、それを使用して作られた動画シリーズです。
ボーカロイドの癖を消して、人間らしい複雑なビブラートを作り出すノウハウで、この技術は一般に
公開されて別の作者にも使われています。
このまったく異なる二つの技術によって作られた作品群が、現在のボーカロイド作品の中で最も人に近い代表作とされているのです。
【初音ミク】 PROLOGUE 【ぼかりす】
ぼかりす騒動のきっかけになった、最初の「ぼかりす」です。
非常に生々しい歌声で、すぐに他の初音ミクの歌とは違うと解ります。ボーカロイド職人による調教では出せなかった感情や抑揚が篭っていて、まるでミクではないようです。
ただし、機械の癖を消すと同時にミクにはありえない音の外し方をしていて、初音ミクの歌唱に慣れたファンにとっては不可解なポイントでした。この違和感と、情報が伏せられていたために生じた様々な憶測が、発表当時の賛否両論を呼ぶ事になりました。
種を明かされてみれば、実際人間が歌っているので、人間らしいのも音を外すのも不思議ではなかったのですが。
動画投稿者は産総研の研究者ですが、後に「産総研P」の名を贈られています。そのままです。
【初音ミク】 Dearest (yks remix)+α 【カバー曲】
yuukissさんによる「ぼかんないんです><」のミク版で、曲は浜崎あゆみの「Dearest」です。
「ぼかんないんです><」は、ぼかりす騒動の最中ぼかりすに対抗してyuukissさんが編み出した
調教法で「MEIKO版Dearest」「KAITO版忘れるわけないでしょ」「ミク版Dearest」の三つが作られました。聞いての通り、ぼかりすに似た声の抑揚と、ミクならではの正確さをどちらも併せ持っています。
やはり神調教と言われる「奇跡の海」は元曲自体にあまり抑揚が無いため、フラットなボーカロイドの歌唱に適していたという面もあるのですが、「ぼかんないんです><」は曲を選びません。
ぼかりすの示したVOCALOIDの可能性と、それに挑戦する職人の技術が生み出した新しい神調教作品です。
この技術は公開されていますが、再現に非常に手間と時間がかかるらしく、誰でも使いこなせるというものではないようです。
→「初音ミクたちの実力を見る動画」へ
【KAITO】 忘れるわけないでしょ (vocal test) 【オリジナル曲】
「ぼかんないんです><」を使って作られた、KAITOオリジナル曲です。
最初のMEIKO版Dearestとほぼ同時に投稿されたこのKAITO版は、MEIKOよりも調声に苦戦したようですが、やはり人間らしい抑揚が再現されています。そして、人の歌を元にしたカバーだけでなくオリジナル曲にも適応できる技術だということが証明されています。
この動画で使われているのは曲のごく一部ですが、KAITOファンの願いも虚しく、未だに完成版は作られていません。
【巡音ルカ】 大漁船 【ぼかりす】
巡音ルカ発売後すぐに発表されたルカ版ぼかりすです。ぼかりす作品としては10番目の動画になります。
技術の改良が進んでいるためか、ルカの汎用性がぼかりすと合っていたのか、今までのぼかりすと比べてもはるかに自然な歌声になっています。よく聞けばルカ特有の巻き舌癖は残っているものの、これなら説明しなければ多くの人が人間と錯覚するのではないでしょうか。
この「大漁船」を使ったぼかりすはボーカロイド全員分が投稿されているので、ボーカロイドごとの違いを比べて聞くことが出来ます。おそらく、演歌独特の抑揚とビブラートの多用がテストに適していたのだと思いますが、ボーカロイドたちがド演歌の「大漁船」を熱唱するのはなんだか面白いです。
それぞれ個性的ですが、ルカを除くとKAITO版とリン版が特に人気が高いようです。なぜか大合唱版まであります。
【KAITO】 大漁船 【ぼかりす】
【MEIKO】 大漁船 【ぼかりす】
【初音ミク】 大漁船 【ぼかりす】
【鏡音リンACT2】 大漁船 【ぼかりす】
【鏡音レンACT2】 大漁船 【ぼかりす】
【がくっぽいど】 大漁船 【ぼかりす】
【VOCALOID合唱】 大漁船 【ぼかりす】
【メグッポイド】 大漁船 【ぼかりす】
【氷山キヨテル】 大漁船 【ぼかりす】
【歌愛ユキ】 大漁船 【ぼかりす】
【SF-A2開発コードmiki】 大漁船 【ぼかりす】
【巡音ルカ】月の浜辺
ルカによる戦前歌謡曲のカバーです。
ルカの神調教の代表作とされるこの作品にも、作者は違いますが「ぼかんないんです><」の技法が使われています。「ぼかんないんです><」の代表的な使い手としては、生みの親であるyuukissさんの他に、この動画の作者である戦前歌謡カバー職人「こがうたP」や、オリジナル曲に応用している
「164」さんなどがいます。いずれも神調教師として称えられるボーカロイド使いです。
「ぼかりす」と大変相性のいいルカですが、やはり「ぼかんないんです」とも相性がいいようで、このままラジオから流れてきてもおかしくない生々しさです。
ルカは他にも多くの神調教曲が発売直後から生まれているので、作者にそれなりの技量があれば、扱いやすさもポテンシャルも非常に高いボーカロイドである事が解ります。
【メグッポイド】 遥かな想い 【ぼかりす】(GEN=64)
インターネット社の新ボーカロイド「メグッポイド」を使ったぼかりす作品です。
インターネット社ボーカロイドの特徴であるリアルな歌声とぼかりすの相性は良いようで、この曲でも一部にメグッポイドの癖が出ているものの、かなり人間らしく聞こえます。
この曲では、同じメグッポイドの「GEN」のパラメーターだけを変えて歌わせるテストが行われていて、この「GEN=64」版の他にも、より高い(若い)声の「GEN=40」版、低い(大人な)声の「GEN=90」版が公開されています。
【初音ミク】「Survivor」【ぼかりす×匿名希望の東京都在住】
「ぼかりす」技術の実用化に向けた新たな段階「Netぼかりす」α版を使ったテスト動画です。
最初の「ぼかりす」が騒動になったちょうど一年後に発表された「Netぼかりす」は、歌詞と人間の
歌声のデータをサーバーに送信すると、自動的にVOCALOIDで扱える形式のファイル(VSQ)に
「ぼかりす」で変換してくれるというサービスです。
この「Netぼかりす」のαテスト版が何人かのP達に提供され、それを使って製作されたテスト動画がニコニコ動画で多数発表されました。この動画は、αテスターの一人「杏あめ(匿名希望の東京都在住)」さんによる作品です。
今までのぼかりす作品と比べてもかなりレベルが高く、人間らしい情感と力強さが歌声にこめられています。「ぼかりす」による自動システムと職人による調教技術が掛け合わされた結果、さらに進化した神調教が生まれました。
ただし、α版では「ぼかりす」の売りの一つである歌声の自動補正機能が省かれていて、歌唱データの元になるP自身がかなり歌が上手くないと使いこなせないという致命的な欠点があります。
音痴な歌を変換すると、ボーカロイドの歌も音痴になってしまうのです。実際、このαテストでNetぼかりすを上手く使いこなせていたPは、数人しかいませんでした。
ちなみに、「杏あめ(匿名希望の東京都在住)」さんは「ボカロ殺し」と呼ばれるほど歌が上手いPとして有名な人です。
これはあくまで機能を省いたαテスト版なので、全ての機能を備えた完全版「Netぼかりす」もいずれ公開されて、さらに進歩していくでしょう。
最終更新・2010/1/8
←押してもらえると励みになりますm(_ _)m
レベルの調教の作品には「神調教」というタグがつけられます。
その神調教の中でも、特に人間に近い作品を生み出す二つの動画シリーズがあります。
産総研の音声研究の過程で作り出された自動システム「ぼかりす」と、
ぼかりすの神調教に対抗するために作り出された、職人による調整法「ぼかんないんです><」。
そして、この二つの技術が発表されたきっかけとなった騒ぎが、「ぼかりす騒動」です。
発表当初、「ぼかりす」は謎の自動技術として話題になり、ネットニュースにも取り上げられるほどでした。
その正体は、産業技術総合研究所(産総研)による「音楽情報処理研究の一環として開発された
『VocaListener: ユーザ歌唱を真似る歌声合成パラメータを自動推定するシステム』のデモンストレーション動画の一部を掲載したもの」だと後に明かされています。これは、人間の歌い手が歌ったデータを元にVOCALOIDの歌唱データを自動で作り出すシステムで、さらに大雑把に言うと人間の歌声を録音してVOCALOIDにコピーするようなものです(多分)。
一方「ぼかんないんです><」は、ぼかりすを分析したyuukissさんが「あ、それってOKだったんですか」と編み出した調整法と、それを使用して作られた動画シリーズです。
ボーカロイドの癖を消して、人間らしい複雑なビブラートを作り出すノウハウで、この技術は一般に
公開されて別の作者にも使われています。
このまったく異なる二つの技術によって作られた作品群が、現在のボーカロイド作品の中で最も人に近い代表作とされているのです。
【初音ミク】 PROLOGUE 【ぼかりす】
ぼかりす騒動のきっかけになった、最初の「ぼかりす」です。
非常に生々しい歌声で、すぐに他の初音ミクの歌とは違うと解ります。ボーカロイド職人による調教では出せなかった感情や抑揚が篭っていて、まるでミクではないようです。
ただし、機械の癖を消すと同時にミクにはありえない音の外し方をしていて、初音ミクの歌唱に慣れたファンにとっては不可解なポイントでした。この違和感と、情報が伏せられていたために生じた様々な憶測が、発表当時の賛否両論を呼ぶ事になりました。
種を明かされてみれば、実際人間が歌っているので、人間らしいのも音を外すのも不思議ではなかったのですが。
動画投稿者は産総研の研究者ですが、後に「産総研P」の名を贈られています。そのままです。
【初音ミク】 Dearest (yks remix)+α 【カバー曲】
yuukissさんによる「ぼかんないんです><」のミク版で、曲は浜崎あゆみの「Dearest」です。
「ぼかんないんです><」は、ぼかりす騒動の最中ぼかりすに対抗してyuukissさんが編み出した
調教法で「MEIKO版Dearest」「KAITO版忘れるわけないでしょ」「ミク版Dearest」の三つが作られました。聞いての通り、ぼかりすに似た声の抑揚と、ミクならではの正確さをどちらも併せ持っています。
やはり神調教と言われる「奇跡の海」は元曲自体にあまり抑揚が無いため、フラットなボーカロイドの歌唱に適していたという面もあるのですが、「ぼかんないんです><」は曲を選びません。
ぼかりすの示したVOCALOIDの可能性と、それに挑戦する職人の技術が生み出した新しい神調教作品です。
この技術は公開されていますが、再現に非常に手間と時間がかかるらしく、誰でも使いこなせるというものではないようです。
→「初音ミクたちの実力を見る動画」へ
【KAITO】 忘れるわけないでしょ (vocal test) 【オリジナル曲】
「ぼかんないんです><」を使って作られた、KAITOオリジナル曲です。
最初のMEIKO版Dearestとほぼ同時に投稿されたこのKAITO版は、MEIKOよりも調声に苦戦したようですが、やはり人間らしい抑揚が再現されています。そして、人の歌を元にしたカバーだけでなくオリジナル曲にも適応できる技術だということが証明されています。
この動画で使われているのは曲のごく一部ですが、KAITOファンの願いも虚しく、未だに完成版は作られていません。
【巡音ルカ】 大漁船 【ぼかりす】
巡音ルカ発売後すぐに発表されたルカ版ぼかりすです。ぼかりす作品としては10番目の動画になります。
技術の改良が進んでいるためか、ルカの汎用性がぼかりすと合っていたのか、今までのぼかりすと比べてもはるかに自然な歌声になっています。よく聞けばルカ特有の巻き舌癖は残っているものの、これなら説明しなければ多くの人が人間と錯覚するのではないでしょうか。
この「大漁船」を使ったぼかりすはボーカロイド全員分が投稿されているので、ボーカロイドごとの違いを比べて聞くことが出来ます。おそらく、演歌独特の抑揚とビブラートの多用がテストに適していたのだと思いますが、ボーカロイドたちがド演歌の「大漁船」を熱唱するのはなんだか面白いです。
それぞれ個性的ですが、ルカを除くとKAITO版とリン版が特に人気が高いようです。なぜか大合唱版まであります。
【KAITO】 大漁船 【ぼかりす】
【MEIKO】 大漁船 【ぼかりす】
【初音ミク】 大漁船 【ぼかりす】
【鏡音リンACT2】 大漁船 【ぼかりす】
【鏡音レンACT2】 大漁船 【ぼかりす】
【がくっぽいど】 大漁船 【ぼかりす】
【VOCALOID合唱】 大漁船 【ぼかりす】
【メグッポイド】 大漁船 【ぼかりす】
【氷山キヨテル】 大漁船 【ぼかりす】
【歌愛ユキ】 大漁船 【ぼかりす】
【SF-A2開発コードmiki】 大漁船 【ぼかりす】
【巡音ルカ】月の浜辺
ルカによる戦前歌謡曲のカバーです。
ルカの神調教の代表作とされるこの作品にも、作者は違いますが「ぼかんないんです><」の技法が使われています。「ぼかんないんです><」の代表的な使い手としては、生みの親であるyuukissさんの他に、この動画の作者である戦前歌謡カバー職人「こがうたP」や、オリジナル曲に応用している
「164」さんなどがいます。いずれも神調教師として称えられるボーカロイド使いです。
「ぼかりす」と大変相性のいいルカですが、やはり「ぼかんないんです」とも相性がいいようで、このままラジオから流れてきてもおかしくない生々しさです。
ルカは他にも多くの神調教曲が発売直後から生まれているので、作者にそれなりの技量があれば、扱いやすさもポテンシャルも非常に高いボーカロイドである事が解ります。
【メグッポイド】 遥かな想い 【ぼかりす】(GEN=64)
インターネット社の新ボーカロイド「メグッポイド」を使ったぼかりす作品です。
インターネット社ボーカロイドの特徴であるリアルな歌声とぼかりすの相性は良いようで、この曲でも一部にメグッポイドの癖が出ているものの、かなり人間らしく聞こえます。
この曲では、同じメグッポイドの「GEN」のパラメーターだけを変えて歌わせるテストが行われていて、この「GEN=64」版の他にも、より高い(若い)声の「GEN=40」版、低い(大人な)声の「GEN=90」版が公開されています。
【初音ミク】「Survivor」【ぼかりす×匿名希望の東京都在住】
「ぼかりす」技術の実用化に向けた新たな段階「Netぼかりす」α版を使ったテスト動画です。
最初の「ぼかりす」が騒動になったちょうど一年後に発表された「Netぼかりす」は、歌詞と人間の
歌声のデータをサーバーに送信すると、自動的にVOCALOIDで扱える形式のファイル(VSQ)に
「ぼかりす」で変換してくれるというサービスです。
この「Netぼかりす」のαテスト版が何人かのP達に提供され、それを使って製作されたテスト動画がニコニコ動画で多数発表されました。この動画は、αテスターの一人「杏あめ(匿名希望の東京都在住)」さんによる作品です。
今までのぼかりす作品と比べてもかなりレベルが高く、人間らしい情感と力強さが歌声にこめられています。「ぼかりす」による自動システムと職人による調教技術が掛け合わされた結果、さらに進化した神調教が生まれました。
ただし、α版では「ぼかりす」の売りの一つである歌声の自動補正機能が省かれていて、歌唱データの元になるP自身がかなり歌が上手くないと使いこなせないという致命的な欠点があります。
音痴な歌を変換すると、ボーカロイドの歌も音痴になってしまうのです。実際、このαテストでNetぼかりすを上手く使いこなせていたPは、数人しかいませんでした。
ちなみに、「杏あめ(匿名希望の東京都在住)」さんは「ボカロ殺し」と呼ばれるほど歌が上手いPとして有名な人です。
これはあくまで機能を省いたαテスト版なので、全ての機能を備えた完全版「Netぼかりす」もいずれ公開されて、さらに進歩していくでしょう。
最終更新・2010/1/8

この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
| BLOGTOP |